
「街路樹サミット in 大阪」を開催して

このたびのサミット開催に至る過程では、木を扱う業界関係者はもちろん、行政や研究者、一般の方々からも数多くの意見をお聞きしました。特に強く感じたのは、街路樹の「ぶつ切り」問題を一つ二つの限られた方向から論じるべきではない、ということでした。次の世代を担う人たちの考えを知って、自分たちが今するべきことを考えたいという想いから、実績のある方々に加え、若い人にも登壇をお願いした次第です。

街路樹の管理責任は現在、行政にあります。行政がやり方を変えれば、多くの課題が解決しそうに見えますが、行政には行政の、沿道の住民の意見をもとに管理方針を決めなければならない事情があります。また、意見は人それぞれ。沿道の住民をはじめ、研究者や同業者同士の意見が分かれることも多々ありますし、高木を何がなんでも残せばいいのか、という別の議論も次々に生まれることでしょう。

たとえば、あなたや私が街路樹の管理責任を負わされた場合…人も車も道も地域も社会も、すべてを満足させられる解決策を示すことができるでしょうか。実際、それは相当むずかしく、道路がつくられた時代背景や沿道の住民の年齢構成の差異などをふくめて考えると、一筋縄ではいきません。この難問を乗り越えるには、まずは多様な考え方を出し合い、共有し、ストックしていくこと。社会には、違いがあればあるほど対処法が増えたと歓迎する度量が必要ですし、個人的にも常に多彩な考え方を受け入れていきたいと考えています。

今後はますます、大小さまざまな議論の場が必要となり、意見や立場が違っても補い合える部分を出し合い、求め合う姿勢が重みを増すことでしょう。ゆえにこれから、私たちは街路樹をふくめた「まちの緑のあり方を考える」グループとして、活動を続けていきます。ピンと胸に響いた方は、どうぞ、ぜひご一緒に。
最後になりましたが、このたびは「街路樹サミット in 大阪」へのご参加、ご支援、ご協力、まことにありがとうございました。心より御礼申し上げます。
街路樹サミット関西実行委員会
代表 木下裕文
「街路樹サミット in 大阪」たくさんの方に参加していただきました。

当日参加者の割合
総勢286名の方にご参加いただきました。造園関係者・研究者(みどり系)の参加が最も多く、均等な意見交換の場とはならなかったかもしれませんが、一般・学生の方々にも多くご参加いただきました。
*グラフは職業などの属性が分からなかった81名を除いた数です。
街路樹サミット in 大阪 プログラム振り返り
基調講演
福岡徹氏「街路樹のためにできること」
講演概要
並木道は、樹木と人が並ぶ連理の道。街の木が市民のパートナーとしてあり続けるにはどうしたらいいだろう。市民として、造園人として、そのために何ができるのか。ふるさとの木々の見守りから、そんな実例をご紹介。
福岡造園 福岡徹氏(秋田県能代市)
『街路樹サミット』提案者。先進地視察で学んだことを地元に還元、市・県・国に街路樹改善の働きかけを行う。地元専門誌等で緑の啓発も行い、季刊誌『庭(建築資料研究社』にて、『街路樹礼賛』の連載記事を担当する。(2013 – 2014)
福井亘氏「街路樹・街の緑の回廊」
講演概要
都市の中の緑には,公園や庭園,屋上緑化など,点・面のパッチ(斑点)として存在しています。また,街路樹は線のコリドー(回廊)として役割を担っています。緑の点と線を結ぶことで生き物にとって,より良い緑地空間を提供しています。街路樹は人のため,視覚的なためだけではなく,人と生き物の共生できる空間も提供し,都市生態系を形作っているのです。
京都府立大学大学院准教授 福井亘氏(農学博士)
大学で農学,院でデザインと緑地計画,景観生態を学ぶ。都市や近郊の土地利用と鳥類との関係を研究し,ランドスケープ遺産や景観の研究,それらの保全管理・整備計画などに携わっている。
矢野智徳氏「都市の生命線としての街路樹」
講演概要
街路樹のラインは都市の血管のような可能性を持っています。街路樹は、都市を有機的で、ヒト、生き物が気持ちよく生活できる環境にする生命線。見方が変わると、ヒトが通るだけでなく、空気と水が循環できる場所としてとても大事な役割を持つと考えます。
杜の園芸 矢野智徳氏(山梨県上野原市)
「大地の再生講座」主宰。全国各地で、土壌中の水と空気の循環という視点で環境保全に取り組む
パネルディスカッション
人の暮らしとまちの緑のこれから〜人と緑と生き物の共生パネラー:福岡徹 / 福井亘 / 矢野智徳 / 育てる里山プロジェクト代表・田中力(立命館大学経営学部教授) / 三浦 夕昇
パネルディスカッションは4部に分けた動画でお伝えいたします。
パネルディスカッションで答えきれなかった話題に関しては、今後「まち杜タイムス」でお答えする予定です。

コーディネーター:瀬古祥子(京都府立大学院)
京都市の街路樹景観と植栽環境についての研究を行っています。主な研究テーマは街路樹の根系による歩道の破損や街路樹形などの課題。平成元(1989)年生まれ。京都府立大学環境デザイン学科卒業。現在,同大学院ランドスケープ学研究室所属,博士後期課程三回生

育てる里山プロジェクト代表・田中力(立命館大学経営学部教授)
立命館大学 経営学部で統計学を学生に教える傍ら、市民・学生が一体となって活動する「育てる里山プロジェクト」のリーダーとして、高速道路の建設により「消え行く里山」と「キャンパス内の緑化」をつなぐ活動に取り組んでいる。京都大学大学院 農学研究科卒。専門は経済統計学、農林経済学。
※育てる里山プロジェクトとは…
新名神高速道路工事により消えていく里山(茨木市北部「千堤寺」共有林)の希少植物をOICに移植して、キャンパス内に「里山」環境を再現しようというもの。

三浦 夕昇(13)
将来は樹木医を目指す中学二年生。 2歳から樹木に興味を持ち始め、街路樹の名前で神戸中の道をマスター。 今では針葉樹を中心に90種を超える樹々を自宅の庭で育て、樹木の修行を積む日々。 各地からハンティングしてきたどんぐりを、山の土で育てるのが最近のブーム。